【無料放送】ニュース・コメンタリー (2020年5月15日)
『検察庁法の改正案はどこに問題があるのか』
新型コロナウイルス感染症に対する緊急事態宣言の発令が続く中、国会では検察幹部の定年延長を可能にする法案の審議が山場を迎えている。
なぜ今この時期にこのような法案を急いで通さなければならないのかについては誰もが首を傾げるところだが、与党は来週にも委員会通過を強行する構えを崩していない。
与党が法案可決を急ぐ理由として、一部で安倍政権の守護神と目される黒川弘務東京高検検事長の定年が迫っているという事情を指摘する向きもあるようだが、仮にこの法案が可決しても施行は2022年4月となっているため、今年8月の黒川氏の定年には直接影響しない。また、この法案が通れば検事総長の定年が現在の65歳から68歳に延長が可能になることから、8月の定年前に黒川氏が検事総長に就任した場合、5年にわたり検事総長の座に君臨できることになり、それが与党にとっては好都合になるとの指摘もあるが、実際は黒川氏は改正法が施行される前の2022年2月に65歳の誕生日を迎え定年退職しなければならないため、実際にはこの法律で黒川氏が長期にわたり検事総長の座にとどまることができるような建て付けにはなっていない。
この改正案が、実は検察定年延長法案でも黒川法案でもないことには留意する必要がある。そもそもこの法改正の有無にかかわらず、検察幹部の人事権は元々内閣が握っている。この法案のもっとも重大な問題点は、内閣の恣意的な運用によって検察幹部の定年3年延びたり延びなかったりするところにある。政権に気に入られた検察官は定年が延び、その分キャリアを積み上げることができる。それはより高い地位であり、大幅な退職金の積み増しであり、天下り先のランクアップでもある。また、この裁量を手にした内閣は、定年間際の検察官を一本釣りして、政権に忠誠を果たすことを条件に定年を延長した上で、破格の幹部職に据えることもできる。
そして何よりもこの法案が通れば、検察の独立性の象徴と言っても過言ではない認証職(天皇の認証を受ける地位)の検事総長の定年延長まで、内閣が自由に操作できるようになってしまう。法律的には検事総長の人事権は内閣に帰属するが、次の検事総長は現職の検事総長が指名するのが慣習として長らく守られてきた。場合によっては内閣総理大臣であっても捜査しなければならない立場にある検察のトップに、内閣の都合のいい人物を据えられるようなことがあってはならないからだ。しかし、内閣によって検事総長の定年が延びたり延びなかったりすることになれば、内閣の言うことを聞かない検事総長は簡単にお払い箱にし、言うことを聞く人物をどこかから連れてきて68歳になるまで検事総長の座に就けることが可能になってしまう。
確たる証拠があるわけではないが状況証拠数々の証言などから、長らく政権の検察への介入を許す窓口になっていたとされる黒川氏が検事総長になるかどうかということ自体も十分に大問題ではあるが、それはこの法案の可否とは直接関係してこない。また定年延長そのものも、それ自体に問題があるわけではない。しかし、政権の恣意的な検察人事への介入を可能にする法案は、国家100年計として決して許されるべきではない。
時として暴走することもあり得る検察を監視することは重要だが、この法案ではその役割を果たせないばかりか、検察が政治権力の手先となり暴走する恐れを孕んでいるという意味で、もっと危険だ。
ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が検察庁法改正案の問題点の本質を、法律の条文にまで立ち返って議論した。
【プロフィール】
宮台 真司 (みやだい しんじ)
東京都立大学教授/社会学者
1959年仙台生まれ。東京大学大学院博士課程修了。社会学博士。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。(博士論文は『権力の予期理論』。)著書に『日本の難点』、『14歳からの社会学』、『正義から享楽へ-映画は近代の幻を暴く-』、『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』、共著に『民主主義が一度もなかった国・日本』など。
神保 哲生 (じんぼう てつお)
ジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表 ・編集主幹
1961年東京生まれ。87年コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。クリスチャン・サイエンス・モニター、AP通信など米国報道機関の記者を経て99年ニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を開局し代表に就任。著書に『地雷リポート』、『ツバル 地球温暖化に沈む国』、『PC遠隔操作事件』、訳書に『食の終焉』、『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』など。
【ビデオニュース・ドットコムについて】
ビデオニュース・ドットコムは真に公共的な報道のためには広告に依存しない経営基盤が不可欠との考えから、会員の皆様よりいただく視聴料(月額500円+消費税)によって運営されているニュース専門インターネット放送局です。(www.videonews.com)
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
Comments List
安冨歩氏が興味深い論考をなさっておられました。
https://youtu.be/hbXwGwL5124
この論考は検証に値しないでしょうか。
安冨氏も神保さん同様に、コロナ対策失敗で国民の怒りを買っている最中にこんな法案通したら国民が騒ぐのは目に見えており、こんなことをすれば「悲願」の憲法改正が遠のいてしまう。
そこまでして、2年後施行という、安倍政権にほぼ関係のない改定をゴリ押ししようとしているのはなぜか。
安倍政権はこの法案を通すことを命じられているのではないか。
誰に。
検察、つまりはアメリカに。(安冨氏は「検察こそが日本の権力の中枢」であり、「検察はアメリカが日本の植民地支配を円滑にすすめるための装置である」と喝破しておられます。)
なんのために。
中国との覇権争いに焦っているアメリカに。
こちらのツイートで、安倍氏が櫻井よしこ氏のインタビューにおいて「黒川の定年延長は法務省が言い出した事。我々はそれを承認しただけ」と発言している動画が掲載されていました。
この動画をみて、ますます安冨氏の論考に、さもありなん、と思いました。
「黒川の定年延長は法務省が言い出した事。我々はそれを承認しただけ」と発言している動画が掲載されていました。
のリンクを貼り忘れていました。
https://twitter.com/ixabata/status/1261303814998487042?s=20
動画内で「広島の案件には東京高検だから手出しできなかった」とありましたが、今の法務省の官房長は政権の手中に無いという理解で良いのでしょうか。黒川氏だからこそ事件をもみ消すことができ、他の人間には真似できるようなことではないのでしょうか。