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早くも見えてきた特定秘密保護法の「牙」

神保哲生 神保哲生 2013/12/18

先週問題になった石破発言(あまり知られていませんが、中谷元元防衛庁長官も同じ日に同じ趣旨の発言をしています。石破さんは撤回しましたが、中谷さんは撤回も訂正もしていません)に関連して、ビデオニュースの番組で問題点を整理しました。

これは報道に限らず重要な(法案の本質に関わる)論点だと思いましたので、共有します。
ここで本質としているのは、これが本当に秘密を漏らした公務員を罰することを主眼とした法律なのかどうかという点です。
言うまでもなく、秘密指定権限の曖昧さや外部チェックの不在が決定的な欠陥ですが、その結果、運用段階で具体的にどのような問題が生じるかを考える上で、この指摘を参考にして頂ければと思います。

「石破・中谷発言に見る特定秘密保護法で報道を封じることが可能論の根拠」

中谷発言部分
石破発言部分

一連の石破、中谷両氏の発言から明らかになったこと。

①政府・自民党は記者や一般市民が特定秘密を取得する行為については、それが著しく不当な方法によるものでない限り、こと「取得」については免責とする条文を修正協議の段階で第24条に入れた。しかし、免責されるのはあくまで取得であり、それを報道(公表)する行為は処罰の対象となるものと考えていた。また、明確にそのような立法意思を持っていた。

②しかし、特定秘密保護法の条文は「報じる」こと(公表すること)には触れていないため、罪刑法定主義上、報道(公表)目的の取得は罰せられないと、常識では考えられること。(22条には報道に対する配慮規定もある。)おそらく石破氏は日本記者クラブでの発言の後でこのことを知り、ひとまず発言の撤回を余儀なくされた。

中谷氏は日本の安全保障を損なう意図を持っていたとすれば罰せられるとの考えを示しているが、石破氏に対する質問にもあったように、漏れれば日本の安全保障に重大な損失を与えるという点は、特定秘密に指定する際の基本要件となっている。つまり、そもそも漏れれば(公表されれば)日本の安全保障に重大な影響を与えない情報を秘密指定にすることはできないのである。「公表されれば、敵国もテロリストもその情報を入手し、それが自国の安全保障を脅かす結果を招くことはわかっていたはず」は、ブラッドレー・マニング裁判で検察側が主張し、判決でも一部採用された論理だった。

③とは言え、記者会見で明らかになった石破、中谷両氏らの立法意思(中谷氏は修正法案の提案者でもある)を前提に考えると、報じること(公表)を前提に秘密を取得した場合、24条の阻却(免責)要件を見たさなくなると解釈できる余地は十分にある。つまり、秘密を報じた(公表した)瞬間に、その秘密を取得した動機が24条の阻却要件から外れ、報じる(公表する)行為自体は罰せられなくても、取得に違法性が生じる可能性があると解釈できるいうことになる。

これは第一義的には報道を対象としている話のように見えますが、そもそも秘密保護法の24条には「報道」という文字はありません。処罰対象となるのは報道のみならず、ペンタゴンペーパーのエルスバーグ氏やスノーデン氏のような一切の公表行為に等しく適用される可能性があるものです。ということは、NPOによる告発や内部告発も同じ扱いを受けることになります。(特に報道目的以外の取得は22条の配慮対象ともなっていないため、より危険性は大きくなると考えるべきでしょう。)

以下に今回の論争の対象となった2つの条文を添付します。

<特定秘密の保護に関する法律案に対する修正案>

第二十二条 この法律の適用に当たっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない。

2 出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする。

第二十四条 外国の利益若しくは自己の不正の利益を図り、又は我が国の安全若しくは国民の生命若しくは身体を害すべき用途に供する目的で、*人を欺き、人に暴行を加え、若しくは人を脅迫する行為により、又は財物の窃取若しくは損壊、施設への侵入、有線電気通信の傍受、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成十一年法律第百二十八号)第二条第四項に規定する不正アクセス行為をいう。)その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為により、特定秘密を取得した者は、十年以下の懲役に処し、又は情状により十年以下の懲役及び千万円以下の罰金に処する。

*太字が4党が合意した修正案の変更部分